値引き交渉が行われているシーンは、商談においてクライマックスです。
契約をほぼ手中に収めたと言っても良いかも知れません。
でも出来れば過度な値引きをせずに利益を確保したいですよね。
この記事はこんな人におすすめ
- 契約まであと一歩、でも値引きせずに売りたいという人
- お客様からの最終値引き交渉を上手く切り抜けたい人
- 後味を悪くせずに契約を獲得したい人
この記事は、日ごろから商談の最終フェーズで値引き交渉を受けて苦戦している場合、どのようにしたら過度な値引きをせずに高利益の契約を獲得できるのかについて、基本行動を説明していきます。
価格の考え方
私は長年営業をしていますが、「売る」という行為や「利益を得る」という行為に対して、少なからず罪悪感を抱きながら営業活動をしている人が、結構いるなぁという印象があります。
そういう人は、自分の提示する価格や利益に対して罪悪感を払拭するのが良いでしょう。
私はこう考えています。
- 利益は次の製品開発やサービス向上に活かすために必要で正当なもの
- 会社を存続させ、高品質な自社製品やサービスを持続的に提供するために必要なもの
- 契約は両者の納得だ
- だまさない、暴利は貪らない
お客様は、購入する価格の中に利益が含まれていることは理解しています。
皆さんがものを買うときも、原価で買っているとは思っていないと思います。
また一般的に、マーケットの相場は存在するので他との比較はするものの、お客様の求める価値を提供できれば営業の言い値で買ってくれるというのが基本です。
ディスカウントストアや格安スーパーでペットボトルのドリンクが売られていますが、それでも同じ商品を割高なコンビニで買う人は絶えません。コンビニで「あそこのお店で同じものがもっと安かったから値引きして」と交渉する人はいないでしょう。
つまり、いくらで売る(売りたい)かは売る側に決める権利があると考えるのが良いです。
(もちろん買う側にも決める権利があるのですが、罪悪感があってすぐ値引きをしてしまう人はこう考えましょう、という意味合いだと捉えてください)
このような心の持ちようが準備出来たら具体的な値引き交渉対策に進みましょう。
値引き交渉対策
お客様の断り文句
商談の最終フェーズ、お客様に見積りを提示したときに言われることは大抵決まっています。
- そんな出せないよ
- 余裕が無いんだよね
- 高すぎだよ、もう少し安くならない?
- 他社に比べて御社は高い
- B社の方が安かったなぁ
- 以前はもっと安かった
- これじゃ稟議下りない
- etc.
どれもそうですが、大抵の場合は提示した見積りのまま価格交渉無しで契約がされることは無いと思ってよいでしょう。
B to Cで、車や家を買う場合に営業の提示価格のまま買う人はいないと思いますし、B to Bで会社として何かを買う場合には、相見積りを取るなどして価格交渉が発生するのが大半だと思います。
(話がそれますが、個人でそこそこ大きな買い物をする場合にも恥ずかしがらずに値引き交渉をしましょう。街の電気屋さんでも値引きしてくれますよ。)
大事なのは、これら断り文句が出た場合にお客様の真意を掴むこと。これが値引き交渉を受けた場合の対応第1ステップです。
お客様の真意を掴む
お客様の真意とは何でしょうか。
高くて買えない、もっと安くしてほしいという断り文句に対して、まずはその言葉の真意を整理しましょう。
- その価格を払うお金が無い
- 他社の価格より高い
- 価格に対してその価値が低い
こんなところでしょうか。
お客様は、基本的にこちらの提示価格そのままで契約してくれないというのは前述のとおりです。
表面的な断り文句の裏に、だいたい上記3つが本心としてお客様の胸の内にあることを想定しておくことが準備として大事になります。
そして1.~3.の見極めの方法として最も大事なことはヒアリングです。
お客様の断り文句に対して簡単に引き下がらず、それでいてグイグイ押さない。
自社提案のアピールに終始してしまっては閉ざした貝は開きませんから、聞き出すことに徹することでお客様の真意にたどり着くことができると言えるでしょう。
では実際にその真意にたどり着くまでの対応策の例です。1.~3.の順にみていきましょう。
1.その価格を払うお金が無い
相手が個人であれば、お財布にあるお金だったり、貯金が目安になるでしょう。サブスクやローンなど毎月支払いが発生するものであれば、毎月の収入からの捻出が可能か否かがポイントになります。
会社として契約する場合は、支出する際の予算取りをするのが一般的です。
その価格を払うお金が無い、というように、文字通り予算の中に収まる価格であれば検討の余地はありますが、承認された予算を上回る価格であれば議論の余地は無し、ということになります。
本当にその価格では買えない、予算が無いから支払えないという見極めをするためには、テストクローズをするのが良いでしょう。
いくつもの観点で「ヒアリング」を重ね、条件を絞って固めていくのが効果的なテストクローズです。
- いくらならご契約いただけますか?
- ○○円なら前向きにご検討いただけそうですか?
- (単刀直入に)予算を教えてください。
さて、お客様に予算が無いけど、営業としてはどうしても契約が欲しいという場合はどうすればよいでしょうか。
ひとつの方法は値引きです。
基本的に値引きは利益を削る行為ですのでこの記事のテーマからは反れますが、契約をもらう前提に立てば選択肢の一つにはなるでしょう。
値引きの場合に忘れてはいけないことは、あらかじめ値引きすることを想定して粗利を乗せておくことです。
冒頭で触れたように、提示する価格の自由は営業側にありますので、不信感を与えるような法外な金額でなければあらかじめ粗利を乗せておくことが大事です。
粗利をあらかじめ乗せておく、についてわかりやすいように図で説明します。
(A)、(B)それぞれ左側にある棒グラフは初回提示価格を示しています。(A)よりも(B)の方が提示価格が大きく粗利も大きいです。もちろん原価は変わりません。
(A)と(B)では、多くの買い手側の人は(B)の方が嬉しいと思うでしょう。ラッキーと思ったり、交渉が上手くいったと感じることと思います。
でも実際に営業側で得ることができる粗利は両者とも変わりません。
(A)の場合は、もしかすると値引き額(誠意)が足りないと思われれば更なる値引き要求を受けてしまうかも知れません。
以上が(B)のようにあらかじめ粗利を乗せておく方が良いという理由です。
もちろん、市場の相場はあるので過剰に高く初回提示してしまえば不信感を与えることになりますし、(B)のやり方が続けば、この会社は値引きを依頼すると必ず値引きしてくれるな、と毎回期待されてしまうことになりますから、それが良いことなのか、都合の悪いことなのか、自社の商品やスタイルに合わせて適切な加減を調整する必要があることは心得ておいてください。
値引きは毎度のことだとしても、毎度「今回限り」と伝えることも有効です。
いずれにしてもこの粗利を乗せておく発想があれば、トータルで高収益が得られますのでコツコツ積み重ねるイメージで怠らずにやりましょう。
値引き以外のもう一つは、要件を削って価格を下げる方法です。
要件を削るというのはどういうことでしょうか。
優先順位付けをして要らないもの、要らないオプションから削っていくという行為になります。
車であれば、ランクを下げるとか、社外オプションを外すということ。
家であれば、材質のランクを下げたり、間取りを見直したり、条件を下げるということ。
システムであれば、低スペックのサーバにしたり、機能を削減したりということ、になります。
値引きは直接的に利益を下げることになりますが、要件を削るのは原価も同時に下げることになりますので、一定の利益率を確保することはできます。
もちろん売上額が下がるので利益額も下がりますが、薄利で売ることにはならずビジネスとしては健全なものと考えてよいでしょう。
2.他社の価格より高い
他社の価格より高いというお客様は、こちら側に一定の期待を寄せてくれていると考えることができるでしょう。
私の経験上、他社の方が安くて他社の提案内容の方が評価されていれば、こちらに黙って契約をしてしまうことが大半で、ごく一部の律儀な方は丁寧なお断りのご連絡をくれるはまだ良い方でしょう。
他社の価格より高い、という場合は、どの部分でどれくらい他社より価格が高いのかどうかを確かめる必要があるでしょう。
ひとつの策としては、見積内容がApple to Appleになっているか精査させてもらうことです。
Apple to Appleは同一条件の比較という意味です。
他社の見積り条件と自社の見積り条件が一致していないことで、自社見積もりが高くなっている場合は当然金額だけが独り歩きしてしまうリスクがあり、不利になってしまいます。
それを避けるためにも、他社との見積金額差が出ている場合は、まずApple to Appleの見積りになっているかを精査しましょう。
同一条件下で金額差が出ている場合は、企業努力の差ということになります。
ブランド価値が高ければ、他社より高くても契約をもらえることもありますが、シビアなお客様に対しては通用しませんし、今時、殿様商売ができる企業は多くないでしょう。
といった場合には、前項の「1.」で触れたように値引きが一つの策になります。
もう一つは、あえてApple to Appleにさせない付加価値を提案することも有効です。例えば自社にしか提供できない付加価値であれば、ブランド価値とは違った実効性のある価値として評価を得られるでしょう。
いずれにしても、安易に値引きをしてしまうのではなく、ベストは他社より高くとも価値を評価してもらい契約してもらうこと。もし価格勝負になってしまったとしても安易に大幅な値下げはせずに、お客様が契約できる最高値で妥結できるよう、粘り強く手を繰り出しましょう。
3.価格に対してその価値が低い
賢明なお客様は初期費用だけでなく、常に費用対効果を検証してモノを購入しています。
大企業であればあるほど緻密に計算して、初期費用は多少高くついても3~5年で回収できるかどうかの試算をしています。
しかし自分がモノを買うときに、そこまで緻密に計算していることがあるでしょうか。また、費用対効果を緻密に計算しているほどの人員がいない会社においても、そこまで手を掛けて検証して購買行動を行うことは難しいでしょう。
そう考えれば、「価格に対してその価値が低い」というお客様の声があった場合は、おそらく価格に対してその価値が低そうだという「印象」があるということでしょう。
つまり、あと一歩背中を押す材料として、論理的に費用対効果をお客様の代わりに営業側が示してあげることが出来れば、契約に大きく近づくでしょう。
費用対効果の算出の仕方は様々な観点がありますが、代表的な考え方は、現状かかっている経費をどれだけ削減できるかで、経営者にとっても最も関心のあるものです。
また、大きな投資に対して即回収できるものはなかなかありませんから、複数年にわたって効果が出ることを論理的(数字で明解)に示すことが大事です。(粉飾はNGです)
また、例話法の記事でも記載したとおり、他社での実績や効果を示すことも大きな効果があります。
ここまで代表的な常套手段ともいえる値引き交渉対策について説明してきました。最後は補足および備忘として昔ながらの方法を説明します。結構効果が大きいです。
値引き交渉対策 ヒューマンスキル編
値引きの価値を高める
値引きは会社の利益を削ることです。営業は利益を作る(守る)のが一番のミッションですから、安易に値引きに逃げてはいけません。
しかしながら、状況によっては値引きをして契約を獲得しなければいけないこともあります。「値引き=悪」ではありません。
ですが、安易な値引きとならないよう、値引きの価値を高めるテクニック(小細工・小芝居)が必要です。
私の経験上は、必ず値引きの即答はしません。
会社の規則上、自分が決裁権限者であっても、重みをつけるために必ず持ち帰り、値引きは経営判断が伴う行為だという説明のもと値引きを行います。
「今回どうしても契約をいただきたい案件ということで、私が直接弊社社長と交渉しまして値引きの了解を得てきました」といった感じで値引きは簡単なことじゃないんだよ、価値を感じてくださいねということを暗に感じてもらうべく大げさに芝居をします。
経験上、機械的に値引きをしてもお客様は感動しませんし、感動しなければ価値として評価してくれませんので、恥ずかしがらずに大げさに作戦を決行しましょう。
そして何より大事なのは、値引きを行う前に「値引きをしたら契約してくださいね」と約束することです。これにより値引きの重みがグッと高まります。
値引きをした後に初めて「値引きをしたんだから買って下さいよ~」とせがんでも、球は相手が握ってしまっていますので、場合によっては「値引きしたからって買うとは言ってないよ」と言われてしまい、交渉としては後手に回るということになります。
どうしたら決めてもらえますか?と逆質問
前項の交渉と同様に、契約を決めてもらうための条件を明確にすることです。
お客様が買うための条件を設定しているのであれば、曖昧なままにさせず妥結ポイントを両者で確認し合うことが大事です。
その際には、「どうしたら決めてもらえますか?」と鋭い質問を投げかけて、答えを導き出すのが良いでしょう。その次は値引き時と同様に「その条件が満たせたら買ってくださいね?」「結構難しい交渉になるんですが、それなりの覚悟で上司に掛け合って了解を得るので、上司から了解がもらえたら契約をお願いしますね」といった感じで事前に逃げ道をふさいでから最終条件提示をするのが良いでしょう。
最後はお願いしてみる
お願いをすると総合的に不利になってしまうのですが、人間はお願いされると受けたくなる心理が働きますので、最終最後のお願いという行為はクロージングの場面では効果の大きいテクニックと考えて良いでしょう。
私の場合どういう状況でお願いをするのか説明していきます。
・値引きしたくないとき
あらかじめ粗利を乗せておいてお客様にも値引きを示したうえで、もうこれ以上引けません!大分頑張って値引きをしたのでどうかこれで契約してください、とお願いします。もちろん一切値引きしたくない時にお願いで押し通すのもアリでしょう。
・決裁者が中々判断しないとき
もうこれ以上の隠し玉は無いので、契約書にハンコをお願いします!と素直にお願いして、お客様の背中を押します。不安は払しょくできても漠然と最終判断がつかない人は多いです。契約する方向に少し傾かせてあげるために最後の一押しとしてのお願いはOKでしょう。
・他社とせめぎ合ってるとき
後悔はさせません。と心からのお願いをします。お願いで熱意が伝わり他社よりも当社を選んでくれるのであればお安い御用です。
実際に営業をしていても「お願い」をしたことのある人は少ないです。また実際に初めてお願いをするとなると、心理的にもかなり難しいです。変なプライドが発動してしまうことも私自身経験済みです。ですからお願いには勇気と練習が必要です。
営業行為の行きつくところは契約、というのが大前提ですし、ドライに言ってしまえばお客様との関係についても契約書に書かれていること以上でも以下でもないのですが、人間は感情で動く生き物であるということも紛れもない事実です。
ですから、お客様の感情に訴えるためにはお願いは有効と考えて良いでしょう。
まとめ
昔上司だった人から言われたことがあります。営業の仕事は利益を稼ぐこと。
また同時に値引きを迫られることは往々にしてあるので、その場合は「安く売るなら時間を掛けない、時間を掛けるなら高く売る」ということをよく言われました。
営業個人で利益にこだわってコツコツと積み上げることが、会社や組織にとって何よりも貴重な行為です。
この記事を安易に値引きに走らず、粘り強い営業力を身に付ける一助にしてもらえればと思います。