案件を獲得するまでの活動として、正式な提案書を作ることは多いと思います。
過去の提案事例などをテンプレートにして、表紙の宛名と日付を変えて、一部の古い情報を更新して、これで提出。なんてことをしていませんか?
営業がちゃんと息を吹き込めば、その提案書は契約のための強力な武器になってくれますので、しっかりと覚えていきましょう。
この記事はこんな人におすすめ
- お客様にウケる提案書がつくれない
- もっとわかりやすい提案書が書けるようになりたい
- 受注を増やしたい
この記事では、改めて営業自身が提案の目的を理解し、背骨のしっかりした提案書を作るための方法を紹介していきます。
なぜ提案書を作るのか
まず、なぜ提案するのでしょうか?
それは相手の困りごとを解決するためであったり、より良くするためであったり、提案を求めている相手の要求に応じるためです。
つまり提案書を作る目的は「相手が抱えている問題の解決法を示すため」ですよね。
具体的な解決策や改善策などを、表や図を用いてわかりやすくストーリー仕立てにして示すものを提案書と言います。
売り手(営業)の意識としては、相手が抱えている問題に対して「解決できますよ!」と示すことができれば、買わない状態から買うといった状態への行動変容を期待して作成をします。
それを踏まえると、行動変容を起こすためのより効果の大きい表現が反映されている提案書が良い提案書と言えるでしょう。
具体的には次に説明します。
良い提案書とは?
順に挙げていきます。
事実に基づいている
提案書はパンフレットではないので、一般論ではなく目の前にいるお客様個別の状況に対してピンポイントで提案していきます。
お客様のところで実際に起きている問題をヒアリングしたり、調査をしたりして、その「事実」をもとに書いていきます。
ここを誤るとピントのボケた提案書になってしまうので、提案書のスタートは事実把握からと考えてください。
事実を表現する際に一番説得力があって有効なのは「数字」ですので参考までに覚えておきましょう。
訴求力が高い
前述のとおり事実が嘘偽りなく書かれていることは当然のことですが、同時に売る側の立場で訴求していかなければなりません。買う気をかき立てるということですね。
そのためには訴求ポイントが明示されているとともに、その訴求ポイントに納得感があり、なるほどねという感じでスッと相手の頭にインプットされるようにストーリー立てられているのが良いでしょう。
訴求ポイントというのは、どれくらい効果があるのか、投資に対する効果の大きさ、メリットの大きさ、価格の妥当性、お得さ等々をここでは意味しています。
網羅性が高い
提案を受けたお客様は稟議を進めます。(決裁者1人で決めるにしても、一定の判断するポイントに基づいて決定をします。)
そのためには、お客様の求めている情報について網羅できているかは非常に重要なポイントになります。
お客様が投資を伴う意思決定をする際には、基本的にROIや5W2Hにそって情報整理しますので、提案する側もROIや5W2Hを意識した提案書にするのが良いでしょう。
ROIについてはこちらの記事も参考にしてください。
5W2Hについてはこちらを参考にしてください。
当然、出来ないことや対象外のことは「含まれません」と書くことや、制約事項など、一見すると商談を不利にしてしまうなと思われる条件についても正直に網羅的に書いていきましょう。
契約と密接に関わるところなので、あとから言った言わないのトラブルになって損失を被るよりも、あらかじめ火種を作らならないこと、そして自分を守ることが大事です。
【提案書を作る前準備】まずは事前に整理と検討を
この事前の整理と検討作業のアウトプットが、これから作る提案書の幹になる部分です。
一人で提案書を作る場合でも、有識者や専門家を巻き込んでチームとなって作る場合でも、提案書にまとめるための情報集めは必要です。
できれば有識者や専門家の積極的な関与を促して、より信憑性の高い、説得力のある情報集めをしていきましょう。また有識者や専門家を交えてのブレストをして、チーム内での認識ギャップを埋めていく作業も非常に重要です。
具体的なやり方としては、ホワイトボード(今時はバーチャルでも良いです)などを使って、皆が同じものを見ながら方向性を合わせていったり、時には役割分担をして宿題を持ち寄ったり、といった形で協力しながら進めるのが良いでしょう。
一人で情報集めをしなければいけない場合でも、基本的に集めるべき情報の範囲は変わりません。社内の上司や先輩等の経験則も参考にしながら、またインターネット上には多分に情報が溢れていますので、そこからエビデンスを引っ張り出してくるのも有効と言えるでしょう。
そして、ストーリー性のある提案書を作るにあたっては、問題と課題に関する理解を深めることが大事です。
お客様のところにある問題と課題は何か。そしてそれらを解消するための方法は何か・・・といった具合に掘り下げていくことで提案書の背骨が出来てきます。
問題と課題についてはこちらをご参考にしてください。
問題の洗い出し<事実>
事前に聞いた情報をもとに問題の洗い出しをしていきます。
前述のとおり、事実をもとに提案書を作る必要がありますので、お客様からヒアリングした情報をもとに改めて何が問題なのかを洗い出していきます。いくつかある場合や派生した問題がある場合は、種別ごとに分類しても良いかも知れません。
ただ、最終的に大事なのは、誰がどんな判断で決定を下すのか、Who?とWhy?を意識した問題を軸として洗い出してたものを整理することです。
課題の整理<事実をもとに策定>
問題が洗い出されたら、その問題を解消するためにやらなければいけないことを整理します。それが課題の整理です。
ぴったりとフィットする商品やソリューションを持っていれば、それ自体が解消のための策になるかも知れませんし、いろんなノウハウや新たに作るものを組み合わせて解消する必要があれば、関係者と協議しながら検討を深めていく必要があります。
これらがある程度出揃ったら、具体的に裏付けをしていきます。
「裏付け」というのは、案が絵に描いた餅で終わってしまわないように、実行できるか(フィージブルか)を一つ一つ検討していくことです。(時限があれば間に合うのかとか、人が足りるのかとか、お金がいくら必要なのかとか、技術的に出来るのかとか、です)
それら提案書のコンテンツとなる情報がある程度できたら、本題の「作り方」の部分に取り掛かりましょう。次からは、どういうことを書いていけば良いかを項目ごとに説明していきます。
【提案書の作り方】この順番でストーリーを作りましょう
パワポ(PowerPoint)が一般的かなと思いますので、その前提でイメージして読み進めてください。(パワポのテクニック的なことはまた別の機会に紹介します。)
いきなり完成形の作成からスタートしてしまうと、方向性が間違っていた場合に大きな時間のロスになってしまいますので、まずはこの目次レベルでどういったことを書くか、ラフな下書きを作成し、関係者と微妙なズレを修正することからスタートしましょう。
そのうえで、段階的に完成形を作り上げていくのが良いでしょう。
表紙
たかが表紙とバカにしてはいけません。
提案書のタイトルは、広告のキャッチコピーと同様にズバッと簡潔に刺さるものが良いですね。それを見ただけで提案内容がイメージでき、本旨に期待が持てるのようなものががベストです。
会社所定のテンプレートがあればそれを使いますが、宛名やタイトル、署名欄など、フォントの種類、サイズ、色にもこだわっていきましょう。
※何年も前のことですが、そのころ一緒に仕事をしていた新卒の女性営業に表紙を作ってと依頼したら、ピンクやオレンジを使ってポップに仕上げてて、さすがにそれは「思てたんと違う」となりました。
はじめに
表紙のタイトルと同じように、この「はじめに」で提案内容へ誘うような文面を書きましょう。
下記の三本立てで構成します。
- 誘い…提案内容を簡潔にサマライズして、この後続く提案本編に期待を持ってもらいます。
- 魂を吹き込む…どうしてあなたに契約してほしいかを感情込みで書いていきましょう。
- 将来を共有…長い付き合いのスタート。後悔させないよう今後のイメージを共有します。
例としては、こんな感じでどうでしょうか。
はじめに
この度は弊社に提案の機会を頂きましたこと、厚く御礼申し上げます。
貴社を取り巻く環境は近年目まぐるしく変化し、各社とも新技術の導入による効率化競争が加速していると認識しております。この分野において長年に渡り、調査、研究を重ねてきました弊社は、貴社の課題解消において下記3つの観点で貢献できると考えております。
- ✕✕✕
- ○○○
- △△△
これまでの長いお付き合いの中で共有頂いた貴社の経営課題をもとに、弊社ならではの視点で改善し、貴社ビジネスの更なる発展に貢献できると確信しております。
また、弊社においては本事業を重点分野として位置づけ、これまで以上に手厚いサポートをお届けできるよう体制強化を進めており、長期的に高品質で安定したサービスを提供させていただく所存です。
是非、弊社提案をご採用いただきますよう宜しくお願い致します。
はじめに、については飾りではなくてこれから始まる提案の序章としての意味を持つことを意識して書いていきましょう。
提案の目的
事前に「事実」をもとに洗い出して整理した問題の部分について書いていきましょう。
お客様目線でいえば、この提案を受ける理由の部分になります。
貴社には、今こんな問題があり、解消して、良い方向、理想の形に持っていきたいですよね?という確認をしていきましょう。
お客様のビジョンがあり、ビジョンに向かうための提案であることの頭出しになります。
貴社はこんな問題を抱えていますね。<今ある事実>
問題を解消して、貴社の目指す姿はこうですよね?<こうなりたいという事実>
また、事実は数字で表すことが出来れば説得力が増しますので、極力、事象を定量化していきましょう。
今ある事実が誤っていれば、この後に出てくる正しい対策は打てませんし、こうなりたいという事実が誤っていれば、お客様はお金を払ってくれません。
上記の「なぜ提案を作るのか」で書いたのと同じことです。
提案側の目線で言うのであれば、私たちの提案を採用して貰えれば、貴社の目指す姿に到達できますよ。ということになるでしょうか。
提案の要旨
提案書の幹の部分です。
前のページで、問題を整理し目指す姿を明らかにした結果、これこれこういう課題が見えてきました。これら課題は、これこれこういうやり方で解消していくのが、私たちの提案です。ということを要約して示すのがこのページの目的です。
貴社はこんな問題を抱えていますね。<今ある事実>
↑
「今ある事実」と「こうなりたいという事実」の差を埋めるための課題とその解決策を示すページ
↓
問題を解消して、貴社の目指す姿はこうですよね?<こうなりたいという事実>
提案書の流れで言えば、起承転結の順ではなくて、結=「結論」を提案書の最初の方の「提案の要旨」のページに持ってきます。
解決方法
ここでは具体的な方法論を示していきます。
How?の部分ですね。
なにがどうなったら目指す姿になれるのか。これを具体的に示していくページになります。
ここには、事前に関係者と協議をしてフィージビリティを確認した案をそのまま載せていくイメージです。
お客様に自社の提案を訴求するためのページでもあります。
お客様自身では思いつきもしなかった解決策を示すことが出来れば、感動を与えることが出来て有利に働きますし、もしも競合状態であれば競合他社対比でも優位に立てる可能性が高くなります。
絵に描いた餅にならないように、順を追って、論理的に示していく必要があります。
効果
効果は、当社の提案を採用して貰えると具体的にどういった効果があるか、メリットがあるか、を示すものになります。
ROIが示すことが出来れば説得力が増すでしょう。ここでも具体的な数値で示すことがポイントになってきます。
例えば、利益率を増やす策を提案しているのであれば、1年後〇%改善する見込み、5年後〇%改善する見込みとか、システムを導入して人員を削減する案であれば、投資総額に対して何名削減が可能で差し引き毎年〇〇円の経費削減が可能なのかとか、です。
グラフにして損益分岐点を示したり、数年間にわたるシナリオであれば毎年の推移の見通しなどを数値で示すことが大事です。
もちろん、どうしてそういった効果が謳えるのかのカラクリ(計算式)も偽りなく示すことを忘れずにやります。
ROIについてはこちらの記事で解説していますので参考にしてください。
スケジュール
ここから先の項目は、見積に密接に関わってくる部分ですので、事前に社内のコンセンサスを十分に取って提示できるようにしましょう。
お客様側で、支払い期限や対応期限があれば、それを意識したスケジュールにしないと、それだけでも条件に見合わないとのことで、選択肢から除外される可能性があるので注意が必要です。
またスケジュールが長ければ長いほど、会社の管理コストが高くつきますので、収支の観点でも適切にスケジュールを立てることも意識しましょう。
提案の先に話を進めることになりましたら、お客様側で考えているスケジュールと照らし合わせて、俯瞰的な観点でスケジュールを押さえるようにしましょう。
体制
誰がやるかの体制を示すことも、提案のクオリティを高めるためには大事な要素です。
お客様は出来るだけ発注先に作業をお願いして、分かりやすく言えば楽をしたいと思っています。
そのためには、経験豊富な人材で、任せていても安心と思える人材が体制に入っていることは提案を採用いただくにあたって、大きなプラスの材料になるでしょう。
費用
最終的にはHow much?いくらなの?という見積の話になります。
PowerPointで作るなら、金額のサマリーを記載すれば良いでしょう。
そのサマリーの内訳だったり、もっと詳細のものが求められるようであれば、別添の資料としてExcelなどで説明するケースもあります。
サマリーで大きな金額を示すにあたっては、その裏に根拠となる数字が無ければいけません。
数字の辻褄が合うように、念入りに費用を算出しましょう。
同時に、出来ないことや費用の中に含まれていないことは、見積対象外であることをしっかり書いておきましょう。
その他
- 裏表紙には、営業担当者名や連絡先情報を書いておきましょう。私の経験上、そこを見て直接連絡をくれたり、質問をくれたお客様が相当数います。
- 提案書を説明する方法は様々だとして、提出した提案書は、その場に同席していない人もあとから見る可能性が大いにあります。提案書自身が営業の代わりに語ってくれるということを意識して言い回しは表現をしましょう。
まとめ
提案書を作る作業をするためには、現状を把握して、本当にお客様とって良い提案は何か?について深く考える必要があります。
提案書を作ることやそれを説明するというのは、相手にこちらの意思を伝えるコミュニケーションの手段に過ぎませんので、状況を見極めて適切な対応をしていきましょう。
お客様の心を掴むために必要なことは、形ではなく、物事の本質と捉えることだと理解しています。